そもそも高い場所で敵を迎え撃つというのは、用兵上低地の敵に対して有利に立つはずである。高い場所からは下の敵の姿が一望でき、迎撃も容易となるし、突撃にあたっては坂を駆け下りる勢いを味方につけることが可能だ。その意味で、野戦陣地を築いた場所が、対シナーク族に有効であるという考え方そのものは間違ってはいなかったといえる。
だが、帝国軍はこの時大きく失念していたポイントがあった。それが、この高台が平地に突出して存在しているものではなく、山岳地帯ならではの起伏に富んだ地形の一部でしかなかったということだ。
こういった地形の場合、高台から駆け下りて敵を突破した先には、険しい地形が待ち構えていることになる。すなわち……退路が存在しないのだ。
一見高台にあって、帝国軍にとって有利に思える地形。だが、この地帯にあっては突撃に際し大きく行動が制限されてしまう