イグセム家と不敗の誓い

 
かつて軍閥時代を政治的、軍事的にまとめあげ、皇帝のもとに帝政を敷くにあたり、功が多かった3つの家柄――それが「忠義の御三家」だ。さらにその中でも筆頭とされるのが、イグセム家である。

「白兵のイグセム」と称されることがあるように、二刀を振るう歴代のイグセムは不敗幻想の体現者とされ、けして敗北を許されない。
その一端は第6話において、ハルグンスカと決闘をした姿にも見て取れるだろう。
ハルグンスカとの決闘を受け、勝利するヤトリ。イクタは「イグセムの剣は見世物だ」というが……
ここではその6話でイクタがシャミーユに対して語った「二刀は皇帝によって望まれ、許されたイグセムの特権」である歴史的な経緯を解説する。

軍閥時代の終わり、国内統一を果たした当時のイグセムは、皇帝に自分の魂ともいえる二刀を差し出した。自分の個性を奪うことで、全体の秩序を至上とした新たな国軍を作ろうとしたためだった。

だが、裏腹に皇帝は戸惑う。イグセムに絶大な信頼を寄せていた当時の皇帝にとって、その象徴ともいえる二刀が失われることは由々しき事態。そこで皇帝は言う。「二刀は帝国の誉れそのもの。兵はそれに憧れて戦場に立ち、民はそれを護国の頼みとして日々忠勤に励んでいる。だというのに、それを捨てることが秩序を壊すことでなくてなんであろうか」と。

この言葉に心を動かされたイグセムは「では、この二刀が一敗地に塗れて、ついには不敗の加護を失うその時までは」と返した。つまり、剣の上で負けない限りは二刀を握り続けると誓ったのだ。それは同時に秩序からの逸脱を、決して単なる立場ゆえの特権としないという決意の表れでもあった。
これが、世に言う「不敗の誓い」の逸話である。
シャミーユに対して、静かに諭すイクタ。彼女もまた皇族であるがゆえに、ヤトリに護られる立場の人間なのだ。
このようにイグセム家にとって「不敗」であるということは、ただ強いことを証明するということでなく、帝国の現体制を守り続けるという意味合いがある。だからこそ、イグセムは負けるわけにはいかない。それはヤトリにとっても同じこと。その腰に二刀を差し続ける限り、彼女は体制の守護者であり続けるのだ。
list page
PageTop

ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミンwebラジオ 種田いのり帝国

電撃文庫 ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン

『ねじまき精霊戦記 天鏡のアルデラミン ROAD OF ROYAL KNIGHTS』公式サイト